2008年1月 国労近畿地本本部・兵庫地区本部・兵庫保線分会作成 「安全な線路に作り直すために−尼崎事故現場のカーブについて−」 の職場討議資料より転載(抜粋)

 97年3月の福知山線と東西線との連結を前にして,尼崎駅に向かって左・半径600mで入線していた福知山方側からの上りカーブが,右・半径304mへの急曲線へ変更された。
 事故調の最終報告によれば,T運転手らに対する懲罰的「日勤教育」や運転士「資格剥奪」への恐怖からT運転士が,無謀な高速運転に暴走したのでははいかという点やJR西日本のATS設置がなぜ遅れたのかという点が指摘されていました。しかし,私たち,「保線屋」は,事故発生以来一貫して,注目し訴えてきた事故現場の「カーブ」問題がなおざりにされていることに,疑問と不満を持っていました。
 事故調から「半径304mは急カーブではない,他にも半径304m以下のカーブもあり問題ない」「制限速度を70k/h以下に設定してあったから,カーブとしては問題ない」等々と言われても,保線屋としては「カーブ問題」に,とことんこだわりたい,と思いますし納得できません。
 半径304mにおける「転覆限界速度」はJR西日本は事故当時133k/hと発表していたが,同志社大・山口教授の国枝理論による転覆限界速度の試算によれば,半径304m,1両目乗客数93人,横振動加速度0.1?とすると,106k/hと試算されている。この数字は,実際に転覆したときの時速105k/hとほぼ同じです。

 ところで,事故調が宝塚線の運転担当電車区である京橋電車区の運転士53名に事故現場の「この右カーブの転覆限界速度は何キロと思っていたか」というアンケートをとったところ,驚くべき事実が明らかとなっています(106k/hの転覆限界速度以上が30名の60%もあった)


 このような実態からT運転士だけでなく,他の誰でも「列車遅延」→懲罰的「日勤教育」→「資格剥奪」という状況に追い込まれたら,速度超過でカーブに突入していたのではないかとも,推認されます。
 JR西日本が,転覆限界速度・時速106k/hを正確に試算し,技術の運用者である運転士に教育・訓練していなかったことが,尼崎事故を惹き起こした大きな原因の一つといえます。
 本来の安全教育をせずに,ミスをした運転士を草むしりや点呼台の横に座らせ「晒し者」にしたり,苦痛を強いることが目的の「規程」の書き写しなど,精神的に気合いを入れることに終始したJR西日本の「日勤教育」がT運転士と乗客107名を死に至らしめた。
 JR西日本の社会的責任は強く批判されなければならないと思います。

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